今回は3級ファイナンシャル・プランニング技能士試験、リスク管理分野の第6回です。人が生活するうえでの事故やリスクには様々なものがあります。
前回は損害保険の仕組みと火災保険について解説しました。
火災保険は火事で家が燃えたときに備える商品でしたが、他にもありますので代表的なものについて解説していきますのでお付き合いいただければ幸いでございますよ。
例によって必要なものとそうでもないものが混在していますが、必要ではなさそうなものも試験では容赦なく出題されますので割り切って覚えていきましょう。
地震を原因とする損害に備える「地震保険」。
「地震保険」はその名の通り地震によって起こる被害に備えるための保険です。
その特徴について順にポイントを解説していきます。
地震保険のカバー範囲。
地震保険は単純に揺れて崩れた家や家財を補償するだけのものではなく、「地震に起因する様々な事故での損害を補償する」と覚えておくといいでしょう。
地震保険は
- 地震や噴火そのものによる被害
- 津波による被害
- 地震や津波によって発生した火災による被害
を補償する保険です。
曲者なのが3つ目の「地震や津波によって発生した火災」で、実はこれは通常の火災保険では補償の対象外となっているんですね。
なので地震で起こった火災による損害を補償するためには地震保険に加入するしかないというわけです。
地震保険の契約について。
地震保険は「単独では加入できない」という点に注意が必要です。
地震保険は必ず火災保険を主契約とした付帯契約としてしか契約できませんので間違えないようご注意下さい。
地震保険の対象と限度額。
補償対象は家と家財となっており、その保険金額は火災保険の30%~50%の範囲で設定されます。
そして主契約の50%以内であっても上限額が決まっており、
- 建物は5000万円
- 家財は1000万円
を超えて契約することはできません。
地震保険の支払いについて
地震保険の保険金額の上限が50%かつ5000万円以下と定められている背景について少し触れておきます。
地震による被害は頻度こそ低いものの、場合により桁違いの損害を生むことがあります。
その被害額は最大で数十兆円にも及ぶ可能性があり大数の法則に収束しないような被害額が発生しうるため、それでもなお保険料で家屋の建て直しを全額賄おうとすると保険料の支払い自体がキツくなるほどバカ高くなってしまいます。。
そのため地震保険はそもそも、「家屋の建て直しを補償」するという目的ではなく「地震後の生活再建資金の給付」を主目的として設定されています。
ちなみに1回(ひとまとまり)の地震あたりの保険金支払総額にもキャップが設定されており、これは最大で12兆円と法律で決められています。
なので東日本大震災を超える規模の災害が起き損害額が12兆円を超えた場合には、50%や5000万円の満額ではなく、按分によって削減された保険金額しか下りないということもあり得る点にも注意が必要です。
そして地震保険金の準備金は現時点で約8割が特別会計からの拠出となっています。
保険料の積立自体は2割程度しかないことになります。
この政府拠出(正確には地震再保険)と保険料拠出を合わせても年間の準備金の増加は推定で約1000億~1500億円と言われています。
これを運用しながら支払限度額12兆円まで60~80年くらいのスパンで貯めていくわけですね。
もちろん貯まり切る前に準備金を超える損失を出す地震が来ることもありえますが、その場合は不足分を政府予算で補填する形になります。
ここまで見た限りでも「地震保険は通常では保険として成り立たない」ということがわかるかと思います。
これは逆に言うと保険料の一部を国が負担してくれているようなもので「契約者側から見れば非常に割のいい保険」ということに他なりませんから、
- 絶対に我が家には地震が来ない!
- 家が崩れるような地震来たらどうせ自分も100%死ぬ!
という確信がある方以外は、上限50%といえど火災保険に地震保険を付帯しておくのは合理的な判断と言えるでしょう。
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地震保険における損害の判定。
地震保険では、地震やそれに起因する被害を受けたときに必ずしも全額が下りるとは限りません。
建物の損壊具合により支払われる保険金の割合が決まっているのですが、とりあえず試験ではその損害の程度を覚えておきましょう。
損害の程度は、保険金支払いの大きい順に、
- 全損(完全に倒壊もしくは全焼)
- 大半損(損失額が保険価額の40~50%もしくは延床面積の50~70%焼失)
- 小半損(損失額20~40%もしくは延床面積の20~50%焼失)
- 一部損(損失額3~20%もしくは床下浸水)
の4段階に分かれています。
多分覚えなくてもいいです。
ちなみに全損では満額、大半損で60%、小半損で30%、5%の保険金額が支払われます。
地震保険料の割引制度。
地震保険の保険料は、基本的に建物のある場所や構造によって異なります。
その中でも建物自体の特性によって割引がありますので以下の4つを覚えておくといいでしょう。
- 免震建築物割引(免震構造の建物は割引)
- 耐震診断割引(自治体が行う耐震診断を受けて、建築基準法の耐震基準をクリアしていれば割引)
- 耐震等級割引(住宅性能表示制度での耐震等級に応じて割引)
- 建築年割引(新しい住宅ほど割引)
どれも自身に強い建物ほど保険料が割り引かれる仕組みとなってはいるのですが、これらは重複して割引を受けることはできません。
複数の条件を満たしている場合にはどれか1つ、大抵の場合は一番割引率の大きいものを適用することになります。
地震保険についてはこんな感じです。
まだまだありますのでサクサク見ていきましょう。
交通事故などに備える「自動車保険」。
「自動車保険」は主に、車を持っている、または運転する人が加入する保険です。
自動車に乗っている人は交通事故からは切っても切り離せないものですので、
- 車で人を轢いてしまった。
- 車で他人の物を壊してしまった。
- 事故で自分の車も壊れてしまった。
などのリスクが必ずついて回ります。
これらの損失や賠償に備えるための保険が自動車保険というわけですね。
自動車は保険には大きく分けて2種類ありますのでそれぞれ見ていきましょう。
車を持つと強制的に加入させられる「自賠責保険」。
まず1つ目は、「自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)」と呼ばれる自動車保険です。
これは自動車(バイク、原付を含む)を購入したら必ず加入しなければいけない保険で、最低限の損害賠償責任を補償するための保険です。
こちらは対人賠償のみカバーすることができます。
つまり人を轢いてしまったときにその被害者の怪我や死亡に対しての賠償に限って保険金が下りるもので、保険契約者自身の損害や物損などには対応していません。
保険金の限度額は、
- 死亡の場合最高3000万円
- 障害の場合最高120万円
- 後遺障害の場合最高4000万円(障害の程度によって最高額も変動)
となっています。
これは本当に最低限の保険で、大抵の場合は自賠責だけではカバーしきれなさそうなのはなんとなく察しがつくと思います。
なので自賠責でカバーしきれない部分を補償するのが次の自動車保険です。
高額の賠償などをカバーできる「任意保険」。
2つ目は自賠責以外の自動車保険を総じて指す「任意保険(任意加入の自動車保険)」です。
こちらは様々な商品があり、保険会社がそれぞれ商品ごとにカバー範囲を設定しています。
その内容は、
- 対人賠償保険(自賠責にもあるやつ)…相手が死亡したり怪我をした場合の補償
- 対物賠償保険…被害者の財物を壊した場合の補償
- 車両保険…自分の車が事故で壊れた場合の保障(ただの故障は対象外)
- 搭乗者傷害保険…自分の車の同乗者が死傷したときの補償
- 自損事故保険…単独事故など被害者がいない事故での補償
- 無保険車傷害保険…無保険車との事故で自分や同乗者が死傷し、相手方が無保険で支払い能力のない場合の補償
- 人身傷害補償保険…自分が交通事故で死傷した際、過失割合を問わずに実損金額を補償(示談成立前に実費を受け取れる)
などがあります。
この中でもいくつか注意点があり、1番目の対人賠償保険では自賠責での支払額を超える部分をカバーしてくれる保険です。
なので対人賠償保険に加入しているからといって自賠責に加入しなくていいということではありませんのでご注意ください。
あとは3番目の車両保険についてですが、こちらは交通事故に限らず偶然の事故であれば、
- 盗難
- 火災
- 台風や洪水
- 爆発
などで車が損害を受けた場合でも保険金が下ります。
ただし、地震や噴火、地震に伴う津波で損害を受けた場合は対象外です。
各保険会社の商品デザインによってどの範囲をカバーしているかはまちまちですので、任意保険に加入する際は各商品をよく調べておくことが重要ですね。
ちゃんと調べて任意保険も入っておきましょう。
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日常の怪我を補償する「傷害保険」。
「傷害保険」は、日常生活での不慮の事故による怪我をした場合に保険金が下りる保険です。
こちらもいくつか種類がありますのでそれぞれの違いを覚えておきましょう。
日常生活で起こる事故での怪我を補償する「普通傷害保険」。
「普通傷害保険」は傷害保険の中でもベーシックなもので、普通に生活している上で不慮の事故などに遭って怪我をした場合にその治療費などを補償する保険です。
こちらはある程度広範囲の傷害原因をカバーしている保険ですが、
- 食中毒
- 地震や津波
- 熱中症
などが原因の場合は対象外となる点には必要です。
中には1つの契約で本人だけではなく家族(配偶者、同一生計の同居親族、同一生計の未婚の子供までが範囲)まで補償してくれる「家族傷害保険」という商品もありますのでついでに覚えておくといいでしょう。
旅行中の様々な損害を補償する「旅行傷害保険」。
「旅行傷害保険」は、普通傷害保険ではカバーできない範囲を旅行中に限りカバーしてくれる保険です。
これには
- 国内旅行傷害保険
- 海外旅行傷害保険
の2種類があり、それぞれ国内旅行のみ、海外旅行のみに特化した保険となっています。
ただし、海外旅行傷害保険は出国前・帰国後であっても「家を出てから帰宅するまで」の間の傷害を補償します。
一応、旅行中であっても怪我であれば普通傷害保険も補償の対象ではありますが、旅行傷害保険では特約によって携行品の損害や損害賠償なども補償してくれたりします。
また、普通傷害保険でカバーできなかった「地震・津波」「食中毒」「熱中症」についてですが、旅行傷害保険ではそれぞれ扱いが異なりますので下の表にまとめておきます。
地震・津波 | 食中毒 | 熱中症 | |
国内旅行傷害保険 | ✕ | ◯ | ✕ |
海外旅行傷害保険 | ◯ | ◯ | 特約あり |
ちなみに旅行傷害保険はクレジットカードに付帯していることもありますので、特に海外旅行をお考えの方はお手持ちのカードについて調べてみることをおすすめします。
ただし、海外で医療機関にかかるときは日本の健康保険が使えずべらぼうな金額を請求されるおそれもありますのでカードでは不足する場合も多いです。
保険金額とかかりそうな医療費を調べて不足分を別途保険に加入しておくのもいいかと思います。
乗り物絡みを広くカバーする「交通事故傷害保険」。
「交通事故傷害保険」は、自分が乗り物に乗っているときに事故に遭って怪我をした際の補償をする保険です。
この保険の特徴としては、自分が運転する車だけでなく、
- 他人が運転する車に同乗
- 電車などの公共交通機関
- エスカレーター
など、幅広い乗り物絡みの事故も補償対象となっている点です。
必ずしも自動車だけではないという点は覚えておきましょう。
ちなみに家族も補償対象になる「ファミリー交通事故傷害保険」という商品もあります。
損害賠償責任に備える「賠償責任保険」。
自動車保険でも少し触れましたが、保険は必ずしも自分が損失を被ったときだけのためのものではありません。
自分が加害者となってしまうと被害者に対して損害賠償責任が発生してしまいますので、その賠償責任を果たすために金銭的なフォローをしてくれるのが「賠償責任保険」です。
その賠償責任保険にも例によっていくつか種類が存在しますので見ていきましょう。
自分が直接加害者になってしまったときのための「個人賠償責任保険」。
日常生活を送る上で他人に怪我をさせてしまったり、他人の物を壊してしまったときに発生する損害賠償責任に備える保険が「個人賠償責任保険」です。
基本的には日常生活上での賠償責任を広くカバーするのですが、補償対象にならないケースがありますのでそれは押さえておくといいでしょう。
具体的には、
- 自動車等の運転による事故(自動車保険の範疇のため)
- 業務遂行中の事故(日常生活でないため)
- 地震や噴火、津波に起因する損害(地震関係は大体対象外)
- 借り物を壊した場合(借りた時点で本人の管理下にあるとみなされるため)
といった感じです。
なんとなく対象外っぽい感じはすると思いますのでイメージで覚えておいて大丈夫だと思います。
また、個人賠償責任保険は1つの契約で家族の賠償責任も基本的にカバーしてくれます。
事業者(特にメーカー)向けの「PL保険」。
「PL保険(生産物賠償責任保険)」は個人にはあまり関係ないですが、主にメーカーや製造業者が加入する保険です。
これは簡単に言うと、メーカーが作った製品の仕様や不具合によってユーザーに損害を与えてしまったときの賠償責任に備える保険です。
例えば、
- 自社の家電でバッテリーが出火して消費者が火傷をした。
- 飲食店で提供された料理で食中毒が発生した。
- 加工食品のアレルギー記載が漏れていたせいで、知らずに食べた人がアナフィラキシーで入院した。
などのケースで損害賠償責任を負った場合に適用されます。
その他の賠償責任保険。
その他にもいくつかありますが、とりあえず2つほど挙げておきます。
まあマイナーではありますのでざっくり「こういうのもあるんだ」的な感じで覚えておけばいいかと思いますよ。
- 施設所有者(管理者)賠償責任保険…施設(お店など)の不備によって利用者が損害を受けたときの賠償責任に備える保険
- 受託者賠償責任保険…他人から預かったものを壊したり紛失したときの賠償責任に備える保険
前者は例えば、
- 建物の外壁が剥がれ落ちて通行人に怪我をさせたとき
- 来店客が床で滑って怪我をしたとき
とかに適用されます。
後者はお客さんの手荷物をよく預かる飲食店や宿泊業の業者が加入することが多いですね。
あんまり個人には関係ない保険ではあります。
あとは賠償責任保険ではありませんが企業向けの保険として、不慮の事故などで営業ができなかったときの逸失利益などに備える「企業費用・利益総合保険」なんかもありますがまあ単語くらい覚えておけばいいかなと思います。
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いろいろな損害保険のまとめ。
- 地震保険は単独では加入できず、必ず火災保険とセットで加入となる。
- 家の建て直しでなく生活再建が目的なので保険金限度額が50%に制限され、上限金額も設定されている。
- それでも税金で一定額賄われているため、加入者から見ると割安な保険ではある。
- 家の倒壊具合には段階があり、それに応じて支払保険金額の割合も変動する。
- 建てた家の強度により割引の制度もある。
- 自動車保険は自賠責と任意保険の二階建てシステム。
- 自賠責は強制だが補償範囲が狭く限度額も高くはない。
- 自賠責の保証範囲外にも色々あるのでそれも覚えておこう。
- 傷害保険にも種類があり、対象と対象外をそれぞれ把握しておこう。
- 海外旅行保険は一番カバー範囲が広い。
- 賠償責任保険は個人向けと企業向けがある。
こんな感じでしょうか。
例によって実用的なものとそうでない保険が一緒くたになって色々出てきますが、そこの区別は試験にはお構いなしではありますので頑張って覚えていきましょう。
火災保険以外ではやはり地震保険と自動車保険は重要度としては高いのでそれぞれしっかり把握しておく必要がありますよ。
次回は保険と税金の絡みについて解説していきます。
FPの試験を受けるにあたってはすべての分野と税金の関係というのはどうしてもついて回ります。
タックス分野と被ってくる点もありますが、多くの受験生は嫌いで苦手でしょうから繰り返しやっていきましょう。
以上です!
