今回は3級ファイナンシャル・プランニング技能士試験、リスク管理分野の第5回です。
前回までで生命保険商品知識について解説しました。
今回は損害保険の仕組みや基礎知識について解説していきますのでお付き合いいただければ幸いでございますよ。
Contents
損害保険の用語。
こちらも例によって専門用語が当たり前のように出てきます。
生命保険とかぶるところは省略しますので一応損害保険専用のワードと思っていただければと思いますよ。
用語 | 内容 |
保険の対象 | 保険をかける対象物。 家や車など、壊れたら保険金が下りるもの。 |
保険価額 | 保険事故が起こったときに被ると思われる損害の上限見積額。 |
保険金額 | 事故の際に保険会社が支払う最高限度額。 契約の際に決定される。 |
再調達価額 | 保険の対象と同等のものを買い直す際に必要な金額。 |
時価 | 再調達価額から使用や時間経過によって消耗した分を差し引いた金額。 |
通知義務 | 契約時から契約者側に何らかの変更が生じた際に、その事実を保険会社に通知する義務。 |
契約者や被保険者、告知義務なんかは概ね生命保険と同じ意味ですが、「被保険者」は「保険の対象の所有者」に近い意味合いで用いられます。
「保険価額」と「保険金額」、「再調達価額」と「時価」についてはその違いとともにペアで覚えておくといいでしょう。
- 家が全焼したら2000万円くらいの損害(保険価額)だけど貯蓄もあるし1500万円くらいの契約(保険金額)でいいか。
- 新品買い直したら100万円(再調達価額)だけど10年も使ってるんだからせいぜい10万円くらい(時価)じゃない?
みたいなイメージで覚えておいて下さい。
損害保険の基本的な仕組み。
損害保険はそもそも、偶発的に起こる事故などのリスクで発生する物的、経済的な損害をお金で補填する目的の保険です。
- 家事で家が燃えてしまったので建て直さなきゃ。
- 交通事故で車が廃車になったから買い直さなきゃ。
- 車で人を轢いてしまって損害賠償を支払わなきゃ。
といったときに使うわけですね。
損害保険を運用する際には、損害の補填という目的から逸脱しないようにいくつか法則や原則が存在します。
その法則・原則は生命保険と被っているものも含めて4つ、
- 大数の法則
- 収支相等の原則
- 給付・反対給付均等の原則
- 利得禁止の原則
があります。
1と2については生命保険の方で説明しましたので省略しますが、損害保険ではさらに2つ追加されていますのでそれについて説明していきますよ。

「給付・反対給付均等の原則」。
「給付・反対給付均等の原則」は「レクシスの原則」とも呼ばれ、「保険契約者が負担する保険料と保険事故が起きたときに支払われる保険金は、それぞれの事故発生リスクの大きさや発生確率に見合ったものでなければいけない」という考え方によって損害保険は運営されています。
簡単に言うと、「保険料は不公平にならないように危険度の高さでそれぞれ変えて設定しなさいよ」ということです。
例えば火災保険の例でいうと、
- 広い敷地に建てられた鉄筋コンクリートのビル
- 住宅密集地の木造戸建て
この2つの建物の保険金額あたりの保険料が一緒だったとしたら不公平ですよね?
なのでこういう場合に不公平感が出ないように、木造の方は保険料を高く、鉄筋コンクリートの方は保険料を安く設定しましょうというのが「給付・反対給付均等の原則」というわけです。
ちなみに純保険料と付加保険料の関係は生命保険と一緒です。
損害に対して支払われる部分が純保険料、保険会社の運営に関する費用に当てられるのが付加保険料でしたね。

「利得禁止の原則」。
損害保険は経済的な損失を補填するためのもので、基本的にはお金に換算できないものをお金に換えるものではありません。
そのため、保険の使い方によって契約者が経済的損失以上の保険金を受け取って利益を出してしまっては損害保険の役割を逸脱することになります。
そこで元になる原則が「利得禁止の原則」です。
この原則により、契約者が被った損害を超える保険金が支払われないよう保険契約が設定されるようになっています。
「100万円のものに500万円の保険が下りるような損害保険は作れない」みたいなイメージです。
なので実際の運用では、契約者の損失額が保険金の支払限度額となっています。
この仕組みを「実損払い」といいますのでこのワードも併せて覚えておくといいでしょう。
横のつながりもあるのでしっかりバレて減額されます。
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保険金額と保険価額の関係。
最初の方で「保険金額」と「保険価額」はペアで覚えると言いましたが、この両者の関係によって呼び方が変わってきますのでそれも覚えておきましょう。
これは保険自体の種類というよりは「保険金額の設定」というイメージのほうが覚えやすいかと思います。
具体的にはまず、保険金額と保険価額を等しくして設定(契約)した保険を「全部保険」と言います。
例えば保険価額2000万円の家に対して保険金額2000万円の火災保険に加入する場合なんかがそうですね。
「ぴったり全部賄うから全部保険」ということになり、事故で全損しても契約者の自腹部分がなくなるので、契約者にとって一番効率が良い保険ということになります。
そして保険金額を保険価額よりも低く設定した保険のことを「一部保険」といいます。
上の例で言うと2000万円の家に対して1000万円の火災保険に加入する場合ですね。
この場合は保険料自体は安くなりますが、事故などで損害が出た場合は支払い保険金との差額は自腹で補填しなければいけません。
また、全損ではなかった場合においても保険金額が損失額を全額カバーするわけではなく、「保険金額と保険価額の割合によって保険金額が削減」されることは覚えておきましょう。
例えば500万円の保険対象にに100万円の保険に入っていいて、全損ではなく半額の250万円が損失額と算定された場合、下りる保険金は保険金額の満額である100万円ではなく、保険価額:保険金額である5:1(保険価額500万円:保険金額100万円)で按分され、20%となる50万円となってしまいます。
ちょっとせこいこのやり口を「比例填補」といいますので用語も併せて覚えておきましょう。
さらにもう1つは、保険金額が保険価額を超える設定となっている保険で、これを「超過保険」と言います。
一見余裕があって良さそうに見えるのですが、実際には保険価額を超えて保険金が支払われることはありませんので、保険金を高く設定した分の支払保険料が単純に無駄になってしまいます。
これは先程述べた「利得禁止の原則」があるからですね。
家の保険価額が2000万円だった場合、5000万円の保険だろうが1億円の保険だろうが2000万円を超えて支払われることはありません。
この3種類についてまとめるとこんな感じです。
保険の種類 | 保険価額と保険金額の関係 | 補填方式 | デメリット |
全部保険 | 保険価額=保険金額 | 実損填補 | 特になし。ちょうどいいやつ。 |
一部保険 | 保険価額>保険金額 | 比例填補 | どう転んでも保険金で全額は賄えない。 |
超過保険 | 保険価額<保険金額 | 実損填補 | 保険料の無駄払いが発生する。 |
一部保険は損害を受ける前の状態にするにはどうしても自腹が発生しますし、超過保険はどうしても保険料の無駄払いが発生してしまいますので、なるべく保険価額を正確に見積もって全部保険に近づけて契約することが重要になってきます。
火災保険の仕組みと保険金支払いについて。
損害保険の保険金の支払いについては上記の仕組みになっているんですが、その保険金の支払いについて、最もメジャーな損害保険である火災保険の仕組みについて補足説明をしていきます。
そもそも火災保険とは?
火災保険は大体の人が加入しているメジャーな損害保険ですが、そもそもなぜ必要なのかという話も少ししていきます。
という人が稀にいますが、そうはいかないのが日本社会の難しいところです。
というのも、火災関連の法律に「失火責任法」というものがあります。
この中では、
軽過失によって火災を起こして隣家に損害を与えた場合はその賠償責任を負わせることができない
と定められています。
つまり、もらい火で家が焼けてしまっても誰も賠償してくれないということです。
なので、自分の失火だけでなくご近所さんの失火にも備えておく必要があるということなんですね。
自分の火元に自信があるだけでなく、ご近所さんまで絶対的に信頼できるなんてことは通常ありませんので、そのためにも火災保険はしっかり入っておいたほうがいいと言えるでしょう。
ゴミ金融商品が嫌いなだけ。
一方で、賃貸住宅において借家人が失火によりその住まいを消失させた場合は大家さんに対しての賠償責任を負います。
なので借家人は賠償金を大家さんに支払わなければいけません。
さらに借家人以外の人(借家の隣人など)の失火によって賃貸住宅を消失させた場合は、失火した人の賠償責任を追及できない上に、借家人は大家さんに対して原状回復義務を負っていますのでこれも大家さんに対して賠償金を支払うことになります。
なので賃貸の場合は契約でほぼ必須となっているんですね。
火災保険の保険金支払いの仕組み。
先ほど全部保険や一部保険について触れましたが、「一部保険では比例填補で支払われる」と書きました。
しかし実生活においては保険金額ぴったりの保険金額を設定するのは至難の業です。
にも関わらず実際に火事になったときに
なんて言われたら頭にきますよね。
なので火災保険においては、ある程度保険金額が保険価額に対して少ない場合でも全部保険に準ずるものとして実損填補が適用されることになっています。
具体的には、
保険金額が保険価額の80%以上であれば実損填補とする
という決まりがあり、それに則って保険金額が算出されることになります。
例えば保険価額(再調達価額)2000万円の家に対して1800万円の保険に加入していて家が全焼した場合は、保険価額に対する保険金額の割合が90%ですので実損填補となります。
下りる保険金額は「2000万円>1800万円」ですので保険金の満額である1800万円が丸ごと保険金として受け取れるということになりますね。
一方、同じく2000万円の保険価額の家に対して1200万円の保険に加入していて家が全焼した場合、この割合は60%で80%未満となり比例填補が適用されます。
具体的な計算方法は、
下りる保険金額 = 損害額 × 契約した保険金額 / (保険価額×80%)
となっています。
この例だと下りる保険金額は、
損害額2000万円(全焼) × 契約した保険金額1200万円 / (保険価額2000万円×80%)
= 2000万円 × 0.75 = 1500万円
となり、契約した保険金額を超えているので支払われる額は契約した保険金額である1200万円となります。
一見満額下りるので変わらないようにも思えますが、同じ条件で半焼(損害額1000万円)だった場合はどうでしょうか。
損害額1000万円(半焼) × 契約した保険金額1200万円 / (保険価額2000万円×80%)
= 1000万円 × 0.75 = 750万円
となり、契約した保険金額の62.5%しか支払われないことになります。
ただし、普通の比例填補なら60%しか支払わられないことを考えると、「80%」という数字を使うことによって幾分か緩和されているとも言えますね。
火災保険における80%ルール
まず、保険価額の80%以上の保険金額を設定しているかどうかで実損填補と比例填補に分かれる理由なんですが、これは「80%もカバーする保険に入ってるなら所有者としての責務は果たしているであろう」とみなされるためです。
そもそも住宅を含むモノの価格は日々変動します。
そんな中で自分の家の保険価額を正確に見積もるのは不可能に近いですし、ある程度バッファを設けないと超過保険(保険料の無駄払い)への圧力になってしまいかねないということですね。
こういった理由から「80%以上は実損填補」という運用になっています。
そして比例填補の「保険価額に80%をかけた金額を分母とする」ルールに関しては、今述べた「80%以上は実損填補とする」という決まりに則って、「80%に満たない割合を基準に比例填補とする」ということです。
こう書くとすごくわかりにくいですが先ほどの例でいうと、
保険価額2000万円の60%にあたる契約保険金額1200万円は、
所有者(契約者)責務を果たしたと言える80%にあたる1600万円に対しては
75%の割合になる。
という理屈で先ほど0.75という結果になったということですね。
この辺を試験で問われる事はありませんが、記憶定着の一助になれば幸いです。
まあ保険価額と保険金額がズレていていいことはあまりありませんので、いずれにしろ長期で火災保険に入っている方なんかは定期的に保険価額(再調達価額)を確認して保険を見直すのをおすすめしますよ!
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損害保険の基礎知識のまとめ。
- 損害保険は事故などで被る経済的なリスクに備えるための保険。
- その原則は「大数の法則」「収支相等の原則」(ここまで生命保険と一緒)「給付・反対給付均等の原則」「利得禁止の原則」の4つ。
- 損害保険は対象物の経済価値が生命保険に比べてわかりやすい。
- 損害保険では保険価額と保険金額の関係によって「全部保険」「一部保険」「超過保険」に分かれる。
- 契約者にとって一番効率的なのは全部保険。
- 一部保険は自腹が発生し、超過保険は保険料の無駄払いが発生する。
- 基本的に全部保険と超過保険は実損填補、一部保険は比例填補となる。
- ただし火災保険は保険価額の80%以上の保険金額を設定すれば、保険金額の範囲内で実損填補が適用される。
こんな感じでしょうか。
損害保険は値段のつけられるものを対象にしているうえ、利得禁止の原則がありますので、無駄が出ないように保険価額をしっかりと見積もって適正な保険に加入する必要があります。
損害保険も生命保険に負けないくらい多種の保険商品がありますので、それらについては次回説明します。
例によって保険絡みは無駄に掘り下げて肥大化する傾向がありますが、文句を言っても始まらないので割り切って頑張っていきましょう。
以上です!
