今回はFP3級の金融分野の第6回です。
前回は株式や株取引の基本的な仕組みについて解説しましたが、今回は実際に株式投資をする際の企業判断のための指標について解説します。
正直株式関係では一番ややこしくて面倒なところではありますが、なるべくわかりやすく解説していきますのでよろしくお願いします。
Contents
結局何を基準にするかの話。
株式を買うにあたり、おそらくすべての人が思っているのは「損はしたくない!」ということだと思います。
中には「損してもいいから一攫千金!」という方もいるかもしれませんが、そういった人は通常の現物株式投資ではなく、もっとボラティリティの高い投機に流れていくと思いますのでここでは割愛します。
なるべく損をしたくないという考えで投資を行う場合、投資の判断基準はいくつかあります。
ざっと、
- その会社の財務状態がいいか悪いか。
- その会社がどれくらい儲けているか。
- その利益を株主に還元しているのか。
こんな感じでしょうか。
1番目の財務状態がいいということは、少なくとも過去はそれなりに儲かっている会社と言えます。
なので仮に現在一時的に何らかのマイナス要因を抱えていたとしても、それを改善するまでの間に倒産してしまうことは考えにくい会社であるとも言えますよね。
なので財務状態がいい会社というのは買うに値する株であるという判断材料になります。
2番目の利益に関してですが、我々投資家が得られる情報は直近の決算で出る業績です。
まあ直近の利益が大きいというのは使えるお金が増えるということでもあるので、増配や事業の拡大が見込めますので、これも買い材料になります。
ただし直近の業績がいいと言っても、一時的なものであるか継続性が見込めるのかの判断は他の情報から各自判断するしかありませんので、それだけを見て飛びつくことのないように気をつけましょう。
3番目の利益を株主に還元しているかどうかについては、主に配当で表されます。
長期の保有を前提とした場合、保有期間に多少株価が下がったとしても毎年多めの配当をもらっていればトータルでプラスになるので、いわば株価を下げたときの保険のようなイメージを持つことができます。
ただこちらも過信は禁物で、株主に還元した分当然財務状況は悪化します。
業績に見合わない高配当は諸刃の剣と考えることもできますね。
このあとの項では、これらを念頭に置いたうえで指標について解説していきます。
今の説明がそれぞれの指標の理解に役立てば幸いでございますよ。
会社の財務状態を表す指標。
まずは上で述べた1番の項目である「会社の財務状態」に関する指標について解説します。
財務状態や利益については、株価との相対的な評価をされるため、「1株あたり〇〇」という指標が用いられます。
ここで解説するのは、
- 1株あたり純資産
- 株価純資産倍率
の2つです。
それぞれ見ていきましょう。
1株あたり純資産(BPS)。
株価から何かを判断すると言っても、それぞれの会社によって発行した株数や株価がバラバラなため一定の基準を定める必要があります。
そこで指標を語る際によく用いられるのが「1株あたり〇〇」という概念です。
そして、財務状態を判断するのに使われるのが「純資産」という概念です。
純資産というのは、簡単に言うと「総資産から総負債を差し引いた金額」です。
例えば現金や不動産などの資産の合計が100億円あったとして、借入や買掛金、未払金などがなければ純資産も100億円ということになりますが実際はそうはいかないでしょう。
仮に借入や買掛金などの負債が80億円あったとすると純資産は「100億円-80億円=20億円」ということになります。
これが純資産と呼ばれ、株全体の価値の基準として扱われるわけですね。
で、1株あたりの純資産を求めるには単純で、上の例で言う純資産20億円を発行済み株式数で割ることで算出することができます。
なので1株あたり純資産(BPS)の計算式は、
1株あたり純資産 = 純資産総額 ÷ 発行済株式数
となります。
上の例で発行済株式数が500万株だとすると、
20億円 ÷ 500万株 = 400円
ということになりますね。
ちなみにこの1株あたり純資産というのは、この決算時に会社が解散した場合に、株主が1株あたりいくら受け取ることができるかという目安になります。
ただし株主個人が負債を負うことはないのでそこはご安心ください。
そしてこの1株あたり純資産の数字を用いて株価の割安・割高を判断するのが次の指標です。
株価純資産倍率(PBR)。
この「株価純資産倍率」というのは、「株価が1株あたり純資産の何倍か」を表す指標です。
計算式としては単純で、
株価純資産倍率(PBR) = 株価 ÷ 1株あたり純資産
となっています。
ほんとにただの倍率ですので、単位は「倍」で表されます。
BPSに比べるとよく出てくる略語ですね。
そしてこれをどうするのかと言うと、数字を見て割高か割安かを判断するだけです。
一概には言えませんが、株価純資産倍率が1~1.5倍くらいであれば適正と言われることが多いようです。
ただし、先々の成長性が見込める業界や伸びしろの大きい会社の場合は、過去の業績よりも将来の値上がりを期待して株を買う人が増えるため、2倍を大きく上回るような数字になることが多いです。
なので株価純資産倍率が大きくなったからといって「割高だ!すぐに売れ!」となるとは限りませんのでその辺はご注意ください。
上の例で言えば、1株あたり純資産400円で株価が800円だったとすると、
800円÷400円 = 2倍
となりますので、その会社が成熟産業でそれほど伸びしろのない会社なのであれば若干割高かなという印象になります。
逆に成長産業で伸びしろがあるのであれば、買い場と見るか乗り遅れた会社と見るかの判断を迫られます。
ちなみに1倍を割り込むような場合、1株あたりの純資産が株価より高いという状況ですので、仮にその瞬間に会社が解散すれば利益が出るという異常事態と言えます。
計算に使う純資産は直前の決算情報だから実際には損するんだろうな
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会社の収益力を表す指標。
今度は「その会社がどれくらい儲けられるのか」という視点から見た指標です。
こちらは
- 1株あたり純利益(EPS)
- 株価収益率(PER)
- 自己資本利益率(ROE)
の3つを覚えておきましょう。
それぞれ解説していきますね。
1株あたり純利益(EPS)。
「1株あたり純利益(EPS)」は、読んで字のごとく「直近の決算における利益が1株あたりいくらか」という数値です。
BPS同様、それだけで指標として使われることはありませんが、株価との兼ね合いで割り出された数字を指標として用いるのに使います。
こちらの計算方法は、
1株あたり純利益 = 当期純利益 ÷ 発行済株式数
となります。
株価収益率(PER)。
今述べた「1株あたり純利益」を利用して算出する指標が、「株価収益率(PER)」です。
先ほど出てきた株価純資産倍率とは違い、会社の財務状態ではなく会社の収益性の視点から見た指標ということになりますね。
計算式は、
株価収益率(PER) = 株価 ÷ 1株あたり当期純利益
となります。
こちらも数字が大きくなるほど割高、小さくなるほど割安という判断をします。
単位は「倍」です。
一般的にPERの適正値は15倍程度と言われていますが、こちらもPBR同様、業界や伸びしろ等によって変わってくるため一概には言えません。
自己資本利益率(ROE)。
次は、1株あたりではなく会社全体の数字から収益力を算出する「自己資本利益率(ROE)」についてです。
こちらは株価との比較ではなく、「会社の実際の資産に対してどれくらい稼いでくるか」という視点で見るときの指標ですね。
株価と比較する指標とは違い、こちらは「%」で表されます。
なので計算式は実際の自己資本が分母となり、
自己資本利益率(ROE) = 当期純利益 ÷ 自己資本
となります。
会社が持っている資産に対しての収益力なので、この数字が大きければ営業効率がいい会社、小さければ効率の悪い会社ということになります。
こちらの適正値は概ね10%程度と言われてはいますが、これも業態や伸びしろで変わってくるため一概に良し悪しは語れません。
要はいろんな指標を見比べて判断しましょうね、ということに尽きると思います。
ここまで出てきた指標のまとめ。
- 資産に対しての株価 → 株価純資産倍率(株価/1株あたり純資産)
- 利益に対しての株価 → 株価収益率(株価/1株あたり純利益)
- 資産に対しての利益 → 自己資本利益率(純利益総額/自己資本総額)
計算問題などでは分子と分母がどっちかわからなくなることが多いので、原則をしっかり覚えて本番で思い出せるようにしておきましょうね。
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株主にどれくらい還元しているかの指標。
ここまでは会社自体の中身がどうなのかという指標でした。
それとは別に「会社はいいけど株主自身にとってはどうなんだ?」という視点から見た指標が存在します。
会社自体が良くても株主にそれが還元されないのでは買ってもしょうがないという気持ちはあるでしょうから当然といえば当然ですよね。
ここでは「買った株を持ち続ける長期の株主」というイメージで読んでくださいね。
この項ではそんな(持ち続ける)株主視点の指標について解説します。
配当利回り。
まずは株価に対してどれくらい還元してくれるのかを表す「配当利回り」です。
イメージは債券でやった利回りと同じですね。
いくらの投資でいくら配当がもらえるかという指標です。
計算式は、
配当利回り = 1株あたり配当金 ÷ 株価 × 100
で、単位は「%」です。シンプルでいいですね。
ただし、利回りを算出する期間には注意してください。
年間の利回りを問われているのに半期だけの配当で計算するといった凡ミスもありますので問題はしっかり読みましょうね。
また、無配の会社もそれなりに存在します。
これには儲かっていないから配当を出せない会社だけでなく、上で少し述べた「配当じゃなくて株価で還元する」という方針の会社も含まれます。
どちらの場合も配当利回りはゼロとなりますので指標としては単体ではあまり意味をなさなくなります。
こちらも過信しないようにしましょうね。
配当性向。
もう1つ配当から見た指標があります。
当期の利益のうちどれくらいの割合で配当に回しているかを表す「配当性向」がそれです。
こちらは株価との比較ではなく、実際の当期純利益との比較になります。
計算式は、
配当性向 = 1株あたり配当金 ÷ 1株あたり当期純利益 × 100
または、
配当性向 = 配当金総額 ÷ 当期純利益 ×100
となります。
こちらは1株あたりと総額のどちらからも出題されるようです。
少しこの数字で気をつけなければいけないのは、高ければ高いほどいいというわけではないという点です。
もし成熟した業界で配当性向が高ければ株主としては単純に嬉しいのですが、逆に業界自体に伸びしろがたくさんある場合はどうでしょうか?
成長産業において、自社の利益を株主に大きく還元してしまうとそのお金をさらなる成長のための原資として使うことができなくなります。
なので成長途上の業界において配当性向が高いということは、再投資の機会を失うということでもあるわけです。
そういうわけでこの指標も業界・業態などをよく見極めてから参考にしないといけませんね。
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個別株の指標についてのまとめ。
- 投資判断になる指標は、「財務状態」「収益力」「株主還元」の3点から見る。
- 株価との相対比較になる指標は「1株あたり〇〇」を算出して株価と比べる。
- 株価純資産倍率(PBR)と株価収益率(PBR)は株価が分子。
- ともに「倍」が単位で、数字が大きいほど割高(買われすぎ)と判断する。
- 自己資本利益率(ROE)は単位が「%」で、大きいほど効率的に稼ぐ。
- 配当利回りは、配当だけでどれくらい株主が儲かるかを示す指標。
- 株価の上昇は無視して債券と同じような計算方法になる。
- 配当性向は、儲けのうちどれくらいを還元するかの指標。
- 配当性向は高すぎると財政基盤の心配が出てくる。
- どの指標もそれだけで判断するのは危険なので、複数で判断したり業界の傾向などと比べて判断することが必要。
こんな感じでしょうか。
アルファベットの略語については、「PBR」「PER」「ROE」あたりは普通に出てくるのでしっかり覚えておいたほうがいいと思います。
あとは正誤問題で分子分母が入れ替わったりする引っかけが出たりします。
その指標が何を表すのかの大元をしっかり理解して計算するのが大事ですね。
この辺の計算については証券外務員試験などでも出てくるようなややこしい分野ですが、しっかり見てみるとそれほど複雑な計算ではありませんので、頑張って慣れていきましょう。
以上です!