今回はFP3級、不動産分野の第1回です。
前回まででタックス分野、金融分野まで解説してきましたが、今回からしばらくは不動産についてやっていきますよ。
不動産も金融と同じく用語が多くてややこしい分野ですが、この辺を知っていると将来マイホームを買うときに罠に引っかかりにくくなるなどのメリットはありますので頑張っていきましょう。
Contents
そもそも「不動産」とは?
念のため「不動産」とは何かについても触れておきます。
不動産は基本的に「土地」と「建物」のことだと思えばOKです。
定義としては「土地及びその定着物」となっており石垣なんかも含まれるのですが、まあ気にせず建物と覚えてもらえればOKです。
不動産の用語。
不動産分野においても金融分野と同様、専門用語が多数存在します。
土地の名前や権利の名前など、それぞれ種類によって呼び名が当たり前のように変わってきますので、混同しないようにしっかり覚えていきましょう。
主な土地の呼び名は、
- 更地…何も建っておらず利用されていない空き地。
- 建付地…建物が建っており、土地と建物の所有者が同じ土地。
などがあります。
次に、権利の呼び名についてです、
- 所有権…土地や建物を所有する権利。
- 借地権…建物の所有を目的として土地を借りて使用する権利。
- 地上権…借地権の一種。借地権と同様建物を所有して土地を使用する権利。
- 賃借権(借家権)…住宅や店舗などを借りる権利。
- 抵当権…貸したお金の担保にする権利。返済が履行されなかったときに行使して土地建物を取り上げることができる。
こんな感じです。
借地権と地上権の違いについてはいくつかありますが、主なもので言うと「借地権には登記が不要だが地上権には登記が必要」というものがあります。
これは、借地権については借主と貸主の合意による契約がなされるため登記の必要はないんだそうです。
一方の地上権については、そもそも所有者の合意が不要な権利であり契約自体を必要としないことから登記が必要になっています。
しかも、借地権では支払いの契約があれば使用料支払い義務があるのに対し、地上権は法律上の使用料支払い義務がありません(そもそも契約の必要がないので)。
この説明からお察しかと思いますが、地上権はかなり強引な権利で所有者に著しく不利な内容となっています。
そのため、係争になった場合は地上権が認められることはあまりなく、かなり特殊なケースでしか認められることのないマイナーな権利と言えます。
次に登記についての用語です。
- 所有権保存登記…その不動産に初めてされる登記。
- 所有権移転登記…不動産の売買・相続・贈与などで所有者が変わったときに行われる登記。
登記については後で解説しますが、簡単に言うと「不動産の所有者が誰であるかを登録すること」です。
所有権保存登記は新規の登録のようなもので、新築の建物を立てたときや新築の分譲マンションに行われます。
所有権移転登記は読んで字のごとく移転の登録なので、土地や中古の建物に行われます。
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同じ土地になぜか価格が5つある怪。
次に土地の価格について解説します。
普通は物の価格というのは1つのものにつき1種類なんですが、土地に限ってはなぜか当たり前に5種類の価格が存在します。
土地はシンプルに売り買いするだけでなく、相続したり固定資産税の根拠となったりいろいろなものに対して派生します。
なので売買価格1つだけで運用してしまうと、恣意的に売買価格を決めることによって税などで不公平が生まれてしまうんですね。
なので売買価格とは別に4種類の「お上が決めた価格」が設定されているというわけです。
その5つの価格は、
- 実勢価格
- 公示価格
- 基準値標準価格
- 固定資産税評価額
- 相続税評価額(路線価)
となっており、この種類に関してはきっちり覚えておく必要があります。
というわけでそれぞれ解説していきますよ。
実際の売買価格「実勢価格」。
まず「実勢価格」についてですが、こちらは基本的に売主と買主の合意で決まる金額です。
普通に土地や建物を売買する際に使われる金額ですね。
とは言っても、特に土地は全く同じものが存在しないので、その価格を決める際にはある程度の基準が必要です。
なので実際に不動産鑑定士などの不動産専門家が価格を決める方法というのが存在しますのでそれについても軽く触れておきます。
土地や建物の鑑定方法には主に3つあり、それぞれ
- 取引事例比較法
- 原価法
- 収益還元法
と呼ばれます。
類似の取引履歴から算出する「取引事例比較法」。
まず最初は、似たような立地であるご近所さんなどで実際に取引された事例を元に価格を決める「取引事例比較法」です。
これは実際の取引事例から値決めをする方法なのでわかりやすいですね。
実際にマイホームなどを売ろうとするときにはこの方法で価格を設定することが多いようです。
例えばご近所さんで今売ろうとしている家と似たような条件の物件が、去年3000万円で売れていたとします。
さらに一昨年には2800万円で売れていたとします。
この段階で、今売ろうとしている家はだいたい3000万円かなというあたりがついてくるでしょう。
これに過去の取引事例との細かな条件の差異(床面積、築年数、駅からの距離、その他の利便性、相場自体の変動など)を加味して金額を調整する、というやり方です。
建物に使われる「原価法」。
「原価法」は減価償却が発生する建物に使われる鑑定方法です。
価値が物理的に毀損しない土地で使われることはあまりありません。
この方法は、「現在の建物を建て替えるとしたらいくらかかるか(※「再調達原価」といいます)」を基準として築年数分の原価を割り引いて価格を決めるやり方です。
例えば、今住んでいる建物を売ろうとする場合、仮に全く同じ建物を新築で建て替えたら1500万円くらいかかるとします。
しかし、実際に今住んでいる建物はある程度築年数が経過していたり、使用により破損や劣化があったりしますので、その分を割り引いて売却価格を決めていく、ということです。
投資物件に使われる「収益還元法」。
「収益還元法」は、「その物件が将来的に生み出す収益」を元に価格を決めるやり方です。
こちらは投資用マンションなどの収益物件の価格が妥当かどうかを判断するのによく用いられます。
具体的には、今持っているマンションから生まれるであろう家賃収入について、「今年はいくら入る、来年はいくら入る、再来年は・・・」というふうに皮算用を行い、その収益率がどれくらいかを判断して売却価格を決めていくわけですね。
そしてややこしいことに、収益還元法には、
- 直接還元法
- DCF法
の2種類があります。
「直接還元法」は、将来の利益を現在価値に割り戻して収益を計算し、その収益額を元に物件価格を決める方法です。
「割り戻す」というのは、「将来の収益を現在の価値に換算する」ということです。
なんで?
例えば、今100万円をもらったとするとその100万円を5年間運用すれば5年後には100万円よりも増えますよね?
5年待てば増えるわけですから5年後の100万円は現在では100万円未満の価値しかないことになります。
この割引幅に関してはその時の状況などによって変わってくるので一概には言えませんが、ほとんどの場合は現在価値だと少し安くなるということは覚えておいてください。
直接還元法の計算式も載せておきます。
評価額 = (年間収入 – 年間経費) ÷ 還元利回り(小数)
となっています。
例えば、
- 年間収入 300万円
- 年間経費 120万円
- 還元利回り 6%
だとすると、
(300万円 – 120万円) ÷ 0.06 = 3000万円
が評価額となるわけですね。
一応還元利回りについても書いておきますのでご参照ください。
還元利回り
資産の収益から資産価格を算出する際に用いる利率をいう。
「キャップレート(Cap Rate)」とも呼ばれる。
資産価値は、発生するであろう収益額を現在価値に割り戻して総計した額に等しいと考えられているが、このとき現在価値に割り戻すために用いる利率が還元利回りである。引用元:三井住友トラスト不動産 不動産用語集より
なんかいまいち納得しづらい説明なんですが、要は
「通常の利回りに、将来の利益を現在価値に割り戻す作業を加味した利回り」
ということです。
なので、直接還元法で不動産価格を求めるのには割り戻し作業は必要ではあるのですが、実際に計算をする場合には割り戻し済みの利回り数字が与えられるので自分で計算する必要がなくなるということなんですね。
対して「DCF法」は、それに加えて「将来の売却価格」を現在価格に割り戻し、それを加味して物件価格を計算するやり方です。
直接還元法は将来的に物件を売らないことを前提に収益だけを積み上げて計算していきますが、DCF法ではいずれ売ることを前提にして保有期間の収益を基準とするため売却価格を計算に含む、ということになります。
将来の収益の割り戻し自体は直接還元法でもDCF法でも両方行うことは覚えておいて下さい。
DCF法の計算式はちょっとややこしいので例を出して説明していきます。
- 年間収益 180万円
- 3年後に売却する予定
- 3年後に見込まれる売却価格 4000万円
- 割引率 3%
- 計算途中に千円未満の端数が出たら切り捨て。
こんな感じの物件があったとします。
この場合、1年目の収益は1年後とみなして180万円を(1+0.03(3%))で割ります。
2年目は2回割り戻す必要があるので(1+0.03)²で割ります。
3年目も同様に(1+0.03)³で割ります。
物件の売却は3年後なので同じく(1+0.03)³で割ります。
それぞれ計算すると、
1年目 180万円÷1.03 = 1,747,572.8155…→174万円
2年目 180万円÷1.03² = 1,696,672.6364…→169万円
3年目 180万円÷1.03³ = 1,647,254.9868…→164万円
売却額 4000万円÷0.03³ = 36605666.37…→3660万円
これらを全て足した金額が不動産の評価額ということになります。
174万円+169万円+164万円+3660万円 = 4167万円
なので評価額は4167万円となる計算です。
割戻し作業は面倒ではありますが、30年とかの長期間持つような物件の計算問題を出されることはないので地道に計算していきましょう。
最後に各査定方法を表にまとめてみます。
混乱しないようご注意くださいね。
特徴 | 用途 | |
取引事例比較法 | 周辺の取引を参考に算出。 | 不動産全般の売却価格を決めるときなどに利用。 |
原価法 | 建て直した場合の金額から劣化分を減価調整して算出。 | 一戸建てなどの建物の価格を決めるときに利用。 |
収益還元法 (直接還元法) |
持ち続けた場合の家賃収入を現在価値に割り戻して算出。 | 投資用物件の価格を判断するのに利用。 |
収益還元法 (DCF法) |
所有期間の家賃収入と想定売却額を現在価値に割り戻して算出。 | 投資用物件の価格を判断するのに利用。 |
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あくまでも目安「公示価格」。
ここまで出てきた実勢価格と異なり、この後に紹介する4つの価格は基本的にお上が決める価格となり、「公的価格」と呼ばれたりします。
まず「公示価格」とは、毎年1月1日を基準として3月下旬に国土交通省が発表する価格で、土地の取引において目安となる土地価格のことです。
あくまでも目安となるだけであって、個別の物件により条件が異なるため実際の取引価格と必ずしも一致するというわけではありません。
ただ、あとに出てくる価格についてはこの公示価格を基準にして決められるため、ベースの価格基準として覚えておく必要があります。
正誤問題などでは「基準日」「公表日」「決定機関」が異なる選択肢なども出てくるため、あとに出てくる価格とともに正確に覚えるようにしましょうね。
公示価格よりちょっと細かい「基準地標準価格」。
次は国ではなく都道府県が決める「基準地標準価格」です。
こちらは7月1日を基準日として9月下旬に都道府県から公表されます。
基本的には公示価格を元に同水準の価格が設定されますが、国が決めた公示価格に比べて少し細かく区域を分けて価格が決定され、公示価格の補助的な役割として利用されます。
他の公的価格は基準日が1月1日であるのに対し、基準地標準価格だけは7月1日であることに注意しましょう。
税金の計算根拠「固定資産税評価額」。
次は、市町村の大事な財源である固定資産税や不動産取得税の計算根拠となる「固定資産税評価額」です。
こちらは1月1日を基準日として、市町村が3~4月の間に公表します。
固定資産税評価額は公示価格の70%程度の金額が設定されています。
公示価格に丸ごと課税されているわけではないので、ちょっとした救済措置のようなものがあると覚えてもらえればいいかと思いますよ。
なぜかちょっと多めに取りたい「相続税評価額」。
最後は、相続税や贈与税といった国税の計算根拠となる「相続税評価額」です。
これは1月1日を基準日として国税庁が7月1日に公表します。
なお、相続税評価額は「路線価」と呼ばれることもあります。
両方とも同じものを指すと思っておいてください。
価格水準は公示価格の80%程度となっており、救済措置はあるものの「市町村よりちょっとがめつい」と覚えておけばいいかと思いますよ。
あんま国税イジると次から100%とか言い出すぞ。
こちらもそれぞれ表にまとめておきますのでご参照くださいね。
決定期間 | 基準日 | 公表日 | 用途 | 公示価格と 比べた割合 |
|
公示価格 | 国土交通省 | 1月1日 | 3月下旬 | 取引価格の 目安 |
100% |
基準地 標準価格 |
都道府県 | 7月1日 | 9月下旬 | 公示価格の 補足 |
100% |
固定資産税 評価額 |
市区町村 | 1月1日 | 3~4月 | 固定資産税 等の計算根拠 |
70% |
相続税評価額 (路線価) |
国税庁 | 1月1日 | 7月1日 | 相続税・贈与税 の計算根拠 |
80% |
なんか偉そうだけど効力が限定的な「登記」について。
先程少し出てきた「登記」について解説していきます。
登記は簡単に言うと「不動産そのものや不動産の権利関係の記録」です。
不動産を取得した人は登記を行うことで不動産に対する権利を主張することができます。
また、登記がされている登記簿は手続きをすれば無関係な人でも閲覧が可能です。
不動産登記が持つ力の話。
登記は公的な記録ではありますがその効力については限定的です。
というのも、不動産登記には「対抗力」がありますが、「公信力」がありません。
「対抗力」というのは簡単に言うと、「自身が権利者であることを他人に主張できる力」のことです。
一方の「公信力」は「登記の内容を信用して取引をしたものまで法的に保護する力」といったイメージで覚えておいてください。
つまり「公信力がない」ということは、権利者自身は権利を主張できますが、「他の人のことまでは保証しませんよ」ということです。
なので間違った登記を信じて買っちゃった人とかは本当の権利者より優先されたりはせず、法的に保護されることはありません。
法的な保護がないから結局裁判になっちゃう。
あとたまにガチで嘘の登記をする人もいるよ。
不動作案登記簿の構成。
登記された書類である登記簿の見方についても解説していきます。
不動産登記簿は「表題部」と「権利部」で構成されており、権利部はさらに「甲区」と「乙区」に分かれます。
それぞれ説明していきますね。
まず「表題部」についてですが、こちらは「その不動産がどんなものなのか」が書かれています。
具体的には、土地であればその所在、地番、地目、地積などが書いてあり、建物であればその所在、種類、構造、床面積などが書いてあります。
それぞれについて軽く内容に触れておきますね。
- 所在…その不動産がある地名
- 地番…何丁目何番(※必ずしも住所と一致するわけではありません)
- 地目…その土地の用途(宅地・畑・山林など)
- 地積…その土地の面積
- 種類…その建物の用途(居宅・事務所・店舗など)
- 構造…建物の造り(木造・鉄筋コンクリートなど)
こんな感じでその不動産がどこにある何なのかが記載されているのが表題部です。
権利部については、甲区には「所有権が誰にあるか」が記載されており、乙区は「その他の権利が誰にあるか」が記載されています。
その他の権利は主に「抵当権」や「賃借権」などが該当します。
「抵当権」は借金の担保にする権利のことです。
ローンの返済が滞ると抵当権を行使されて、担保としてその不動産が取り上げられてしまうことになりますね。
「賃借権」はその土地を借りて建物を建てる権利のことです。
ちなみに我が家も住宅ローンがありますので乙区には銀行さんの抵当権がしっかり設定されています。
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登記の条件が満たされなかったとき「仮登記」。
不動産を登記するときに、登録要件に不備があったりすると登記(本登記)ができません。
そうこうしているうちに他の人がこっそり登記をしてしまうこともないわけではないので、それを防ぐために「仮登記」という方法があります。
「仮登記」は、勝手に他人に登記されないように登記を行う順位をキープしておくための方法と思っておいてください。
これを行っておけば仮登記を取り下げなければ勝手に他人が本登記をすることはできませんので、もし不備があった場合は仮登記をしておくと少し安心です。
ただし、仮登記は本登記と違い対抗力を持ちません。
なので仮登記のまま放っておくと土地の権利を第三者に主張することができなくなってしまいますので、要件を満たしたら速やかに本登記を済ませるようにしましょうね。
決済未了で実際に仮登記するかは別として。
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不動産の価格と登記についてのまとめ。
- 不動産は主に土地と建物。
- 不動産の名前や権利の名称を混同しないように覚えよう。
- 不動産の価格は実際の取引価格の他に役所が決める価格もある。
- 実勢価格を算出する方法を理解しておこう。
- 役所が決める価格は4種類。
- それぞれ「どこ」が「いつを基準日として」「いつ発表するか」を覚えておこう。
- 登記の仕組みと登記の持つ力を理解しておこう。
- 仮登記には対抗力もないよ!
こんな感じでしょうか。
金融ほどではありませんが不動産分野でもややこしい用語が多めに出てきますので、混同しないようにしっかりと区別して覚えていきましょうね。
FPの不動産分野は大人になって生活していく上で割と実用性があることは確かなので、今時間を使って覚えていくことは有意義だと個人的には思っています。
次回以降は実際の不動産取引に付随する内容を解説していきたいと思いますのでお付き合いいただければ幸いでございますよ。
以上です!