FP3級タックス分野、今回は8回目です。
前回までで所得税を計算するための各論をやってきましたが、今回は所得税を納付する制度自体を深堀りしていきます。
具体的には、「確定申告制度」、「源泉徴収制度」と「青色申告制度」について解説していきます。
これらについては別記事「所得税の概要」で少し触れているのでなんとなくのイメージは既にお持ちかと思います。
「さっぱりわからん!」という方は下の記事を先にお読みいただければぼんやりとしたイメージはつかめると思いますのでぜひご覧ください。
Contents
多数派から自動で徴税するための「源泉徴収制度」。
まずは世の中の多くの労働者が該当する会社員や公務員から半自動的に徴税できるシステムである「源泉徴収制度」について解説していきます。
所得税の原則は確定申告による申告納付なのですが、青色申告と関わってくるため一旦後回しにします。
会社員や公務員は確定申告をしなくてもいいように「源泉徴収」と「年末調整」だけで納税が完結するような仕組みを国がしっかりと整えています。
源泉徴収というのは簡単に言うと「給与から概算で所得税を天引きすること」と捉えておけばOKです。
そしてサラリーマンは年の最後の給料で所得税額が確定するので、その差額を会社が調整して還付します(足りていない場合は追加徴収されます)。
天引きした税金は会社が納税者に代わって国に支払うというシステムです。
ちなみに天引きした税金は、一旦翌月の10日までに国に納めなくてはいけません。
もちろんこの事務負担も会社持ちです。
給与所得以外では、
- 利子所得(銀行等が代行)
- 配当所得(証券会社等が代行)
- 公的年金にかかる雑所得(年金機構等が代行)
においても源泉徴収が行われます。
源泉徴収で課税関係が終了する人は原則として確定申告を行う必要はありませんが、中にはサラリーマンであっても確定申告が必要になるケースもありますので、確定申告の項で改めて解説しますね。
源泉徴収された人がもらう「源泉徴収票」について。
給与所得者が年末調整後にもらう書類に「源泉徴収票」というものがあります。
これは以前は給与所得者が確定申告を行う際に添付する必要があった書類です。
今は添付の必要はありませんが、確定申告の際には源泉徴収票に記載の数字が必要になるので間違えて捨ててしまわないようにご注意ください。
問題を解くにあたって源泉徴収票の読み取りが必要になる場合があるため、内容について見ていきましょう。
下の図は私の2023年分の源泉徴収票です。
問題などでパッと見では違うフォーマットになっていたとしても内容は同じですので慌てずによく見るようにしてください。
それぞれ解説していきます。
①がいわゆる額面給与の金額です。
年収と言われたら一般的にはこの金額を指しますね。
②は給与所得控除を差し引いたあとの金額です。
ここから所得控除を引いた金額が課税所得金額になります。
③は所得控除の合計額です。
前回の記事で解説した所得控除を諸々合計した金額がここです。
④は月々の給与や年末調整で会社が預かっている源泉徴収金額です。
年末調整を行ったあとの税額が記載されます。
基本的に会社員はここで課税関係が終了します。
訳あって確定申告をする場合は、確定申告での税額が記載の金額より少なければ還付、多ければ追加徴収が行われます。
⑤は控除対象配偶者の有無です。
共働きで配偶者が控除対象外の場合は結婚していても何もつきません。
⑥は配偶者控除または配偶者特別控除の金額が記載されます。
本人や配偶者の所得によって金額が変わるのは以前の記事で解説しましたね。
⑦は扶養控除に該当する人の数が記載されます。
扶養控除は配偶者控除等と異なり属性によって金額が確定しますので、金額は記載されないことが多いです。というか金額が書かれているのは見たことがありません。
⑧はその他の所得控除の金額です。
社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除などの金額が記載されます。
⑨は住宅ローン控除の金額です。
住宅ローン控除は1年目は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で受けることができますので源泉徴収票にも記載されます。
こちらは税額控除なので、一旦税金を計算してからこちらの金額を控除することになります。
計算問題などでは所得控除と一緒くたにして引いてしまわないようにご注意ください。
実際に問題では源泉徴収票を読み取って所得金額や税額を求める問題が出たり一部を隠してそこから計算させるようないじわる問題も出たりしますので、しっかり読めるようにしておきましょう。
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所得税の納税は原則「確定申告」で。
確定申告の概要。
所得税を徴税(国民側から見たら納税)するあたって基本となるのが、「確定申告」です。
要は、
お前たちが納める税金は自分で計算し、申告書を作成した上で遅滞なくしっかり納めるのだ!
足りなかったらペナルティ、多すぎたらこっちからは何もしない!
ということです。
だから古来から今に至るまでヘイト高い。
確定申告は、1月から12月までの暦年での所得を自分で計算し、翌年の2月16日~3月15日までの間に居住地の所轄税務署へ申告・納付を行います。
曜日は関係なくこの日付ですのでご注意ください。
郵送で申告を行う場合は、消印が3月15日までであればOKですが、宅配便やゆうパックなど郵便以外での申告はできません。
必ず信書扱いで郵送しましょう。
また、最初の手続きは若干面倒ですがインターネット上での申告(e-Tax)も可能です。
そして納付が3月15日を過ぎてしまった場合は所定の延滞税が発生し、余計な税金を支払う羽目になります。
ただし、銀行口座を指定すれば引き落としや還付を向こうのタイミングでやってくれます。
だいたい3月15日よりも後になりますが、どちらにしろ納付の場合は引き落とされる場合は3月15日までには口座にお金を用意しておかなければいけません。
会社員や公務員でも確定申告が必要になるケース。
基本的に給与所得者は確定しなくても年末調整で課税関係が終了します。
しかし、サラリーマンであっても給与所得・退職所得以外の所得が20万円を超える人は全員行わなくてはいけません。
また、他の所得がなくても以下の条件に当てはまる人は申告する必要があります。
- 年収2000万円以上の人。
- 医療費控除・雑損控除などを受けようとする人。
- 住宅ローン控除を受けようとする人(初年度のみ)。
- 給与所得・退職所得以外の所得金額が20万円を超える人。
- 2か所以上から給与を受けている人。
- 寄付金控除を受けようとする人(ただし、ふるさと納税でワンストップ特例を利用した場合は申告不要)。
- 6か所以上にふるさと納税を行って控除を受けようとする人(ワンストップ特例が使えるのは5箇所まで)。
上のどれかに該当したら確定申告が必要になりますのでご注意ください。
2か所以上から給料をもらっている人はまあわかりますね。
お互いの会社がどれくらい給料を支払っているかなんてわかりませんので、源泉徴収額や年末調整で税額が正しく計算できない可能性のほうが高くなってしまいます。
確定申告での計算をミスった場合。
確定申告で申告した所得や税額に計算違いなどのミスを自分で発見した場合は、次のうちのどれかの手続きで訂正する必要があります。
- 確定申告のやり直し(確定申告期限内に限る)
- 修正申告(申告期限後、当初より税額が多くなる場合)
- 更正の請求(申告期限後、当初より税額が少なくなる場合)
まず、申告期限内に前の確定申告が間違っていることに気づいた場合は、改めて期限内に確定申告をやり直すことができます。
この場合、前回出した申告書を添付したりする必要はありません。
申告期限後に過少申告をしていたことに気づいた場合は、「修正申告」を行います。
この場合、正しい税額に加え「過少申告加算税」が課せられることがあります。
一方、過大申告をしていたことに気づいた場合は修正申告で過分に納めた税金を取り戻すことはできません。
この場合に行うのは「更正の請求」といいます。
これはその通りで、更正の請求を受けた税務署は、当初より減った所得額(及び減った税額)が妥当なものであるかをきっちり精査して妥当であれば返還を行います。
つまり妥当でなければ税金の返還はしないということですね。
「更正の請求という手続ができる場合があります。」って書いてある。
もうこれ返す気ねえじゃん。
怖いねぇ。
ちなみに自分で過少申告に気づかなかったり気づいても放置していたりして税務署の調査で発覚した場合は、自ら修正申告をした場合より大きなペナルティを受けることになります。
ミスったら期限後であってもちゃんとゴメンナサイしましょうね。
亡くなった人の確定申告。
生きている人は翌年の3月15日までに申告をすればいいのですが、亡くなってしまった人は当然翌年に生きているわけはないので確定申告ができません。
そういった場合のために「準確定申告」という制度があります。
これは、亡くなった納税者の相続人が、亡くなったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行わなければいけません。
やること自体は通常の確定申告と一緒なので特にこれ以上深堀りすることはありませんが、
- 相続人が
- 4ヶ月以内に
行うということは覚えておいてください。
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きっちりやると得する「青色申告制度」。
次は「青色申告制度」について解説します。
今までの記事の中でもちょこちょこ出てきましたが、簡単に言うと、「帳簿をしっかりつけてる人は少し税金まけてやるよ」という制度です。
具体的には、
- 複式簿記で帳簿をつけてきっちり財務諸表を作成すれば55万円の「青色申告特別控除」が受けられる
- さらに電子申告(e-Tax)か帳簿の電子保存をちゃんとやれば65万円にアップ
- ただし、山林所得と事業的規模でない不動産所得、または期限後申告をした場合は10万円止まり。
といった感じです。
ただし、何でもかんでも受けられるというわけではなく、青色申告ができる所得は
- 不動産所得(事業的規模で最大65万円、そうでない場合は10万円)
- 事業所得(最大65万円)
- 山林所得(10万円)
の3種類に限られます。
「ふじさん(不事山)」という覚え方をさせられることが多いです。
青色申告を適用できる要件。
上で述べた3種類の所得で青色申告を行うには条件がいくつかありますのでそれも覚えておきましょう。
- 青色申告をしようとする年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出し承認を受ける(※1月16日以降に開業した場合は開業日から2ヶ月以内に提出)。
- 正規の簿記の原則(複式簿記)に従って帳簿をつけ、その記録に基づいて申告する。
この2つの条件を満たさなければいけません。
正規の簿記はいわゆる複式簿記のことで、国や自治体がやっているような単式簿記では認められません。
実は私も3級持ってます。
これを元に財務諸表(貸借対照表や損益計算書など)を作成して確定申告を行うことが条件というわけですね。
ちなみに青色申告の特典を全部放棄して行う通常の申告は「白色申告」と呼ばれます。
事業主でこれをやっている人はどんぶり勘定なことが多いですね。
でもどんぶり勘定でやっていると結局税務調査がきて余計な税金を払わされることになるので、事業をやろうとしている方はきっちり帳簿をつけて青色申告をすることをおすすめしますよ。
青色申告特別控除以外の特典。
青色申告をする人は、控除以外にもいくつか特典があります。
国としてはそれくらい国民に帳簿をちゃんとつけさせたいということですね。
具体的には、
- 青色事業専従者給与の経費算入。
- 純損失の繰越控除。
などがあります。
「青色事業専従者」とは、青色申告をしている事業主が従業員として働かせている配偶者や親族のことです。
本来、生計を一にする家族親族に支払った給与は経費算入はできません。
しかし青色申告をしている事業主は、ちゃんと働いている家族への適正額の給与を経費として計上していいということになり、その分所得は減り税金が安くなるわけですね。
もちろん名前だけ使って給与を支払うことは認められませんのでここはご注意ください。
また別の記事でも書きましたが、青色事業専従者に該当する人は配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除の対象にすることはできません。
もう一つの「純損失の繰越控除」については、青色申告をしている事業主の所得がマイナスになったときに、その赤字を最大3年間繰り越せることになっています。
ここで言う「純損失」とは、損益通算をした結果の所得を指します。
以前にやった雑損失などと混同しないようご注意くださいね。
そして青色申告なので当たり前ですが、繰越控除を受けようとする場合は毎年きちんと確定申告をしなければいけません。
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所得税の申告・納付の流れについてのまとめ。
- 納税の基本は確定申告。
- ただし、大多数のサラリーマンを補足するために「源泉徴収」という制度がある。
- サラリーマンは特に事情がなければ源泉徴収と年末調整で課税が終了する。
- ただし、確定申告が必要になるサラリーマンもいるので要件を抑えておこう。
- 確定申告は自分で計算、納付。
- 期間は2/16~3/15で、遅れるとペナルティ。
- ミスって期限を過ぎたら「修正申告」か「更正の請求」。
- 不動産所得、事業所得、山林所得には「青色申告」という特典制度がある。
- きっちり帳簿をつければ各種特典が受けられる。
こんな感じです。
「所得税の概要」の記事でぼんやりとしていたイメージがこの記事を通して固めてくだされば幸いでございますよ。
次回は、個人の住民税と事業税について解説していきます。
所得税に比べると3級でやることは少ないので少しだけ安心していただければと思いますよ。
以上です!